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山梨県弁護士会について

声明・総会決議

総合法律支援法の一部を改正する法律の成立に当たって、さらなる民事法律扶助制度の拡充等を求める会長声明

 2016年(平成28年)5月27日、総合法律支援法の一部を改正する法律案が参議院において全会一致で可決し、成立した。
 本改正法は、(1)認知機能が十分でないために自己の権利の実現が妨げられているおそれがあって、近隣に居住する親族がいないこと等の理由により、弁護士等のサービスの提供を自発的に求めることが期待できない者に対し、資力を問わない法律相談を認めたこと、(2)資力に乏しい者のうち、認知機能が十分でないために自己の権利の実現が妨げられているおそれがある者に対し、公的給付に係る行政不服申立手続の代理援助等を認めたこと、(3)ストーカー被害者、DV被害者及び児童虐待を受けた児童に対し、資力を問わない法律相談を認めたこと等、民事法律扶助制度の対象範囲をある程度拡充したことについては、評価に値すると言える。
 しかしながら、(1)上記各法律相談に関しては、資力がある場合には負担金を支払うものとされていること、(2)上記行政不服申立手続の援助が、生活保護、介護保険、障害者総合支援法上の各給付等に対する審査請求など公的給付に係る行政不服申立手続の援助に限定されており、日弁連会員の費用負担により日弁連が法律援助事業として実施している生活保護申請に対する援助活動などには到底及んでいないことを考えると、極めて不十分な改正であると言わざるを得ない。
 今般の総合法律支援法の改正に当たっては、2014年(平成26年)、法務省に「充実した総合法律支援を実施するための方策についての有識者検討会」が設置され、同年6月11日、同有識者検討会から報告書が提出されたものの、本改正法は、かかる報告書の内容からも後退するものであり、極めて不十分である。
 弁護士の福祉機関等との連携は、従来から各弁護士会の権利擁護活動の一環として実践されているが、弁護士においては、民事法律扶助制度の対象範囲外のためにほぼ無償で行っている状況にあり、現在の民事法律扶助制度は弁護士が司法ソーシャルワークの担い手として機能するような制度設計になっていない。また、高齢者・障害者に対する権利擁護活動に当たっては、福祉機関が主催するケース会議等に出席して、具体的事件の支援に関して福祉職員にアドバイスすることが必要であり、現実に求められているが、かかる援助も民事法律扶助制度の対象範囲外とされている。日弁連では、このような民事法律扶助制度の対象範囲外とされている各弁護士の活動に対し、2009年(平成21年)6月から現在に至るまで、日弁連会員から特別会費を徴収し、法律援助事業を実施している。かかる日弁連の法律援助事業により、生活保護申請に関する法律相談、申請同行、審査請求などの行政不服申立手続の援助、精神保健福祉法上の退院請求や処遇改善請求、難民認定の申請、外国人の入管手続等の援助などの場面では、弁護士の費用等が支払われている。
 しかしながら、かかる日弁連の法律援助事業でも対象範囲外とされる各弁護士の活動もまだ多数存在し、例えば、福祉職員からの法律相談料などは未だにどこからも支払われず、各弁護士会において無償で行われているのが現状である。
 総合法律支援法2条に規定されている「民事、刑事を問わず、あまねく全国において、法による紛争の解決に必要な情報やサービスの提供が受け付けられる社会を実現」するとの基本理念と司法ソーシャルワークを充実するためには、本改正法以上に民事法律扶助制度の対象範囲を拡充する必要があり、少なくとも日弁連の法律援助事業の対象範囲までの拡充、さらには同事業の対象範囲外までの拡充を求める。
 当会は、本来的な国の責務として上記民事法律扶助制度のさらなる拡充を行うよう関係各官庁等に申し入れるとともに、今後も、高齢者・障害者等福祉的な支援が必要な方々に対し、適切な法的サービスを提供し、国、地方公共団体等と司法ソーシャルワークの観点から連携して、尽力する所存である。

2016年10月1日

山梨県弁護士会
会長 
松本成輔