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山梨県弁護士会について

声明・総会決議

生活保護法改正法案の再提出および生活保護費の切り下げに反対する会長声明

第1 生活保護法改正法案の再提出について

  1. はじめに
     政府は、第183回国会(平成25年常会)において、「生活保護法の一部を改正する法律案」(以下、「改正案」という。)の成立を目指した。改正案は、平成25年6月4日一部修正のうえ衆議院で可決されたが、最終的に同月26日に参議院で廃案となった。しかし、田村憲久厚生労働大臣は、今月開催の臨時国会に改正案を再提出する意向を示している。
  2. 改正案の問題点
     当会は、すでに平成25年6月8日付けで、「生活保護法の一部を改正する法律案」の廃案を求める会長声明を発した。同声明では、憲法25条による生存権保障の趣旨に鑑み、①申請書及び添付書類を要する改正、②扶養義務者への通知・調査に関する改正の2点に看過しがたい問題点があるとして、以下①②のとおり主張した。

    ①申請書及び添付書類を要する改正案についての問題点
     現行生活保護法の生活保護申請に際し、添付書類等を要しないとする取扱いは、生存の危機時における保護が遅れることにより、国民の生命身体に対し取り返しのつかない結果を生じさせかねないという認識に基づく。現に貧困その他の事情により生存を脅かされている状況にある国民に対し、すみやかに最低限度の生活を保障して、生存の危機を回避させることは憲法25条による生存権保障の中核的要素の一つであり、生活保護申請にあたっては、申請の意思表示のみで足り、何らの添付書類も必要とされないという現行生活保護法の取扱いは、この憲法の精神を体現したものである。
     ところが改正案では、申請書に必要事項の記載や書類の添付を要する旨が強調されており、記載事項や添付書類の不備に乗じた申請の不受理を招く懸念がある。また、貧困状態にある要保護者に、必要書類の取得や作成といった負担を課すことは、正当な申請を断念させてしまう事態を招きかねない。実際に、生活保護の窓口においては、今でさえ、生活保護申請を事実上受け付けない「水際作戦」と呼ばれる違法な扱いが散見されている。改正案は、かかる「水際作戦」を合法化しようとするものであって、憲法25条による生存権保障の趣旨に反していることは明らかである。
     なお、改正案では、「特別の事情があるときは、この限りでない。」とされたが、必要書類の提出が原則であり、「特別な事情」の有無の判断は行政側が行う以上、申請書の不備を理由とした申請拒否の可能性は否定できず、これまで述べた批判が該当する。

    ②扶養義務者への通知・調査に関する改正案についての問題点
     改正案による扶養義務者に対する通知・調査等の制度は、本来生活保護が必要な状況にある国民が、親族間に軋轢が生じることなどを気にして、保護申請を断念してしまうという弊害をもたらす危険性が高い。生活保護制度の受給要件を充たす者のうち、実際に生活保護を利用している者の割合(捕捉率)は、現在2割程度であると言われており、このような制度は、現状においても高いとは言えない捕捉率をさらに低下させる結果となり、一層生活保護の申請を委縮させる危険性がある。

  3. 生活保護制度の役割
     生活保護制度は、生存権保障のための最後のセーフティーネットである。格差と貧困が深刻な社会問題となっているわが国において、餓死・孤立死・自死や貧困を背景とする犯罪や虐待などの悲劇を防ぐために、生活保護など社会保障制度が果たすべき役割はますます拡大している。
     改正案は、経済的困窮者を、生活保護の利用からさらに遠ざけるものであり、憲法25条による生存権保障の観点から到底容認できない。
  4. よって、当会は、次期国会に改正案を再提出することに対し、強く反対する。

第2 生活保護費の切り下げについて

  1.  自民党が選挙公約に掲げた「生活保護給付水準の10%引き下げ」を受けて、厚生労働省は本年8月1日から生活保護費の支給額を切り下げた。今後、2015年4月にかけて3段階に分けて引き下げる予定とされている。その結果、生活に苦しむ全国の生活保護受給者の多くが、行政不服審査法に基づき自治体に審査請求をした。
  2.  当会は、すでに平成24年11月9日生活保護の給付基準切り下げに反対する会長声明を発出した。そこでは生存権保障とそれに基づく生活保護の趣旨に基づき、生活保護が最低限の生活を保障するというセーフティーネットであること、わが国の生活保護捕捉率の低さ、それによる餓死者などの存在などから生活保護の切り下げに反対した。
     ちなみに、山梨県の被保護世帯数は4079世帯、被保護人員5088人、人口に対する被保護実人員の割合は0.59%にすぎず、47都道府県中41位となっている(厚生労働省,福祉行政報告例(平成23年2月分概数))。
  3. ところで、生活保護費の切り下げは、生活保護の問題だけではなく、多くの制度に連動する。「最低賃金」「住民税の非課税」「介護保険料」「公営住宅家賃の減免」「就学支援」などである。収入の少ない世帯は様々な場面で生活保護費切り下げに連動した経済的不利益を甘受せざるを得ない仕組みとなっている。政府は生活保護費切り下げの理由を「物価の下落」としているが、受給者が利用しない比較的高額な家電製品などの物価下落を含むなどの点、また、いわゆるアベノミクスによる輸入原材料の値上がりで、物価はむしろ上昇していると言われる実態と齟齬が生じている。
  4. よって、当会は、改めて生活保護費の切り下げに反対するものである。

 

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2013年10月12日

山梨県弁護士会
会長 
東條正人