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山梨県弁護士会について

声明・総会決議

検察庁法に反する閣議決定の撤回を求めるとともに、国家公務員法等の一部を改正する法律案に反対する会長声明

  1.  政府は本年1月31日、2月7日に63歳の定年を迎えることになっていた東京高等検察庁検事長黒川弘務氏の勤務について、国家公務員法の勤務延長規定(国家公務員法第81条の3)を根拠として半年間延長するとの閣議決定を行い(以下「本件閣議決定」という。)、またその旨の発令をなした(令和2年2月12日官報第188号9頁)。
  2.  しかし、検察官に対して国家公務員法第81条の3を根拠に勤務延長を認めることは許されない。すなわち、同条第1項は、確かに公務員の勤務延長について定めているが、検察庁法は、これとは別に、検察官の定年について「検事総長は、年齢が65年に達した時に、その他の検察官は年齢が63年に達した時に退官する。」と定めている(検察庁法第22条)。そして、この検察庁法の規定が国家公務員法の特別法に当たり、国家公務員法が適用されないことについては、検察庁法第32条の2や国家公務員法(昭和22年法律第120号)附則第13条の規定から明らかである。
     また、検察官に国家公務員法第81条の3による勤務延長の制度の適用がないことは、内閣、人事院の一貫した法律解釈ともなっていた。すなわち、1981年(昭和56年)に国家公務員法が改正され、国家公務員の定年とその延長の制度が導入されることとなったが、同法案を審議した当時の衆議院内閣委員会において、人事院事務総局任用局長は、「今回の法案では、別に法律で定められている者を除くことになっている。検察官については、国家公務員法の定年延長を含む定年制は検察庁法により適用除外されている。」旨を答弁している。そして、本件閣議決定まで40年近く、1981年(昭和56年)の答弁を否定する取扱いはされてこなかったのである。
  3.  本件閣議決定は、法律の改正によらず、このような政府による恣意的な法解釈の変更を行うものであり、政府がこのような解釈変更を行い得るとすれば、法の安定性は著しく損なわれ、「法治主義」の根底を揺るがしかねず、本件閣議決定は、断じて容認できるものではない。
  4.  その後、かような法律の改正によらない解釈変更による勤務延長が国会で批判されたためか、政府は、3月13日、国家公務員法等の一部を改正する法律案(内容として検察庁法の一部改正を含む。)を閣議決定し、これを国会に提出した。
     改正案は、全ての検察官の定年を65歳まで引き上げつつも、63歳以上は原則として最高検次長検事や高検検事長、検事正などの役職に就けないものとし、その一方で、「内閣」が「職務遂行上の特別の事情を勘案し(中略)公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として『内閣』が定める事由があると認めるとき」(検察庁法改正案第22条第5項)に当たると判断するなどすれば、特例措置として63歳以降もこれらの役職を続けられるようにするとの内容である。「公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由」を決定するのは、国会ではなく、内閣とされている。
  5.  そもそも、法律を制定するためには、これを正当化するための根拠となる具体的事実(立法事実と呼ばれる)がなければならないところ、本法改正は、政府による説得的な理由説明のないままに特定の検察官に限った前例のない勤務延長が行われた直後、これが批判されるや、全ての検察官について一般的に定年を引き上げようとするものである。こうした経緯に鑑みても、検察官全体の定年を65歳に引き上げたうえ、一部の役職への就任について内閣の判断による特例措置を設けるような立法事実は、何ら明らかにならない。
     検察官は、刑事訴訟法上強大な権限を持ち、厳正公平、不偏不党を旨として、時には政治家や官僚をも訴追しなければならない立場にあり、司法の一翼を担う準司法的地位にある。検察官の定年制は、その職務と責任の特殊性に鑑み、政治からの独立性と中立性の確保が強く求められることから、検察官の人事に行政権力が恣意的に介入することを防ぐ趣旨を含むと解されている。万が一、時の政府が、「職務遂行上の特別の事情」を恣意的に判断し、自らに都合のよい人事権を発動するとすれば、検察官は、不利益的な人事権の発動を恐れて、権力に対する訴追を躊躇する事態にもなりかねない。実際、本件の具体的な事実関係に照らせば、今後も政府による恣意的な人事権の発動を可能とするために法改正を行おうとしているとの疑念が払拭できない。
  6.  このような法改正は、何らの立法事実にも基づかないものであるばかりでなく、検察官の独立性・公平性の担保という検察庁法の趣旨を根底から揺るがすものであって、憲法の基本原理である権力分立と権力の相互監視の理念に違背するものである。また、これまで熱意をもって、不偏不党を旨として誠実に職務を行ってきた検察官や検察庁職員に対する冒とくでもあり、検察官の職務に対する国民の信頼を破壊する極めて不当なものというほかない。
  7.  以上の理由により、当会は政府に対し、本件閣議決定に抗議し、撤回を求めるとともに、国家公務員法等の一部を改正する法律案のうち検察官の定年ないし勤務延長の「特例措置」に係る部分を撤回し、憲法の権力分立原理を遵守して検察官の独立性を維持するよう、強く求めるものである。             

2020年3月31日

山梨県弁護士会
会長 
吉澤宏治