ページの先頭です

山梨県弁護士会について

声明・総会決議

人権等への過剰な制限とならないよう、改正新型インフルエンザ等対策特別措置法の厳格な運用を求める会長声明

 2020(令和2)年3月13日、新型コロナウイルス(COVID-19)をその適用対象に加える新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下「特措法」という。)の改正法案が国会で可決・成立した(以下、改正後の同法律を「改正特措法」という)。

 改正前の特措法においては、内閣総理大臣による緊急事態宣言のもと、都道府県知事による外出の自粛要請、学校その他多数の者が利用する施設における使用停止要請・指示を可能とするなど、強い拘束力を伴う広範な人権制限規定が定められていた。しかも、緊急事態宣言の要件及び宣言に基づく個別の人権制限規定が抽象的かつ曖昧であり、またその期間も最長3年に渡ることから、その運用によっては、各種人権に対する過剰な制限が可能となるおそれがあった。このことは、2012(平成24)年3月22日付日本弁護士連合会「新型インフルエンザ等対策特別措置法に反対する会長声明」で指摘されるとおりである。

 しかし、上記の問題点については、今回の改正においても何ら修正されていない。したがって、改正特措法のもとにおいても、運用次第で過剰な人権の制限が可能となるおそれは否定できない。

 もちろん、新型コロナウイルスの感染拡大防止のためには、立法も含め、政府や自治体において迅速な対応が可能となるような様々な対処が必要である。しかし、その場合であっても、表現の自由や子どもたちの学ぶ権利など人権の制限は、感染防止という目的達成のために、必要最小限度のものでなければならない。このことは、改正特措法にも明記されているところである(同法5条)。

 そこで、改正特措法の運用にあたっては、緊急事態宣言が広範な人権の制限を招くおそれのある制度であることを踏まえ、宣言を発するか否かについて特に慎重な判断を行うべきである。この点、衆議院内閣委員会の付帯決議により、緊急事態宣言を行う際には原則として国会への事前報告を行うこととされたところであり、内閣総理大臣はこの決議を尊重するとともに、報告の際には、十分な説明責任を果たしたと評価される報告をなすこと、国会での質疑が行われる場合には、誠実に理解を得られるよう応答することなどが強く要請される。

 また、仮に、施設使用停止等人権の制限を伴う措置が必要な場合であっても、その制限の範囲及び期間については、医師等の専門家の意見を踏まえた必要最小限度のものに留める必要がある。

 さらに、その措置に至るプロセスの明確化と情報公開による透明性の確保、記録保存など、事前及び事後において検証が可能となる措置がとられる必要がある。

 これまでのイベント自粛・休校要請などにより国民の社会生活や経済活動に極めて重大な影響が生じていることから明らかなとおり、改正特措法に基づく措置は、個々の人権の制限にとどまらず、中小事業者を含めた社会全体に重大な影響をもたらすおそれがある。新型コロナウイルスの感染拡大という重大な事態だからこそ、恣意的な運用による人権や経済活動への過剰な制限に陥ることなく、科学的根拠に基づく冷静かつ厳格な運用が求められる。

 当会は、改正特措法の今後の運用を注視するとともに、新型コロナウイルスの感染拡大に起因して生じる各種の法的課題に対処し、市民の皆様の権利利益の擁護に邁進する所存である。

2020年3月17日

山梨県弁護士会
会長 
吉澤宏治