弁護士の仕事 民事編 その2
「この世から紛争はなくなるのか。」

2009年8月1日
小澤 義彦

世の中にはなぜ紛争が絶えないのか、という根本問題がある。


山梨県の多くの弁護士は、というか日本中の多くの弁護士は、その仕事のほとんどを日々発生する民事事件の処理に追われていると思われる。銀行や証券会社の金融商品や債券の発行などにかかわる仕事、大企業の合併とか分割とか企業の統廃合の仕事、国際取引にかかわる仕事などもあるようだが、それは全体の弁護士(平成21年7月段階約27000人)のごく一部であってほとんどの弁護士は日々多発する個別の紛争事件を処理したり、あるいはその予防的な仕事をしていると考えられる。


だから、弁護士になって、独立したころは、「今月は事件処理の依頼があったからなんとか仕事ができて収入も確保できたが、来月はどうなるんだろう」、あるいは「来年はどうなるのだろう、事務所の賃料や事務員の給料も払わなければならないし、ちゃんと仕事はこれからもあるんだろうか」、といつも不安な心理状態であった。


離婚、相続、交通事故、土地の境界争い、貸金のもめごと、会社や個人の破産、請負契約における請負代金請求や瑕疵修補請求、賃料の不払いと明け渡し請求、消費者詐欺事件の被害者からの相談、刑事事件の弁護人など数々の事件を処理してきた。そうして25年近くが過ぎようとしている。


私は、弁護士になって10年目くらいから、この世から紛争がなくなることはないのではないかと考えるようになった。なぜなくならないのかは、個別事件によって違うので、また、別に書こうと思うが、要するに、人の世界から病気がなくならないように、紛争もなくならないのではないか、との思いである。人は、好むと好まざるとにかかわらず紛争に巻き込まれる可能性を秘めている。学校に行き(いじめや不登校など)、就職して(賃金不払い、セクハラ、労災、サービス残業、解雇問題等)、結婚して(婚約不履行、不倫、離婚)子供が生まれて(子供をめぐる様々なトラブル)、家を建て(建築のトラブル)、ドライブに出かけ(交通事故)、親が死んで(相続)、自分も人生の終わりを迎える時期が来る(介護の問題や遺言書の作成など)。このそれぞれの段階においてそれぞれ紛争が起きる可能性がある。これを全部100%無事で通すのはかなり至難のことだ。結婚すれば配偶者の親の分も増えるので、相続などは2倍になる。

弁護士は、医者が手術や薬を使って病気を治すように、法律を使ってこれらの紛争を治さなければならない。
紛争を解決する(病気を治す)ことによって世の中の秩序や平穏が保たれる。


もしも、この世から病気がなくなれば医者は不要となる。もしもこの世から紛争がなくなれば弁護士も不要となる。しかし、残念ながらそのような時代が来るとは思えない。人は過ちを犯す存在だからである。


弁護士が不要な世の中が来たら私の弁護士稼業も終了する。そしたら何をしようかなどと時々考えることがある。しかし、なかなか答えは出ない。長年弁護士を続けたためかあるいは生来のものか、少し(あるいは大きく)性格が歪んでいるような気がする。周りの弁護士を見ていてもそう思う。しかも法律以外のことはさして分かっていない。だから就職に困ることが予想できる。これは大変困ったことだが、紛争のない世界が来るならそれはそれで大歓迎しようと思っている。